幽霊を見たことが無い。
けれど、ソレっぽいの(怪談っぽいの?)を体験したことが一度だけある。
折角なので覚えているうちに少し記録しておく。
●赤い汽車●
今思い返してみると、確実に幽霊ではないのだろうが、あれは不気味な体験であった。
季節は多分、晩夏だったと思う。
夕暮れの住宅街を、僕は一人、自転車を走らせていた。確か買い物にいく途中だったと思う。
辺りは、夕方というのに薄暗く、視界が悪い。
赤慕に白むアスファルトに舗装された道路を、自転車の灯火と疎らな街路灯が、頼りなく照らすだけであった。
僕の地元の道路は、兎に角薄暗い。
その上、道幅も狭い。
車一台がやっと通れる道幅。そして住宅街なので街路灯もまばら。
住人たちが雨戸を閉めようものなら、たちどころにして辺りは闇に包まれる。
「人さらいに、注意しましょう。」
立て看板もなんとも不気味である。
さて、そんな地元の道を、僕は自転車に乗って買い物へ出かけていたのだけれど、道中、道路上に不思議なものを見かけた。
赤い汽車のおもちゃだった。
狭い道路の真ん中に、2、3台が連結した状態で横たえてある。
あたかも、先程まで子供が遊んでいたかのようであった。
僕は、そのおもちゃはきっと、路上で遊んでいた子供の、忘れ物だろう、と思った。
「こんなところに散らかしやがって、邪魔だなあ」
と、僕はそのおもちゃを迂回し、目的の店へと向かった。
買い物を済ませた後の帰路で、それは起こった。
辺りはすっかり日が落ち、闇に包まれていた。
ふと、「あの赤い汽車のおもちゃはどうなったのだろう?」と思い、例の道路へと向かってみた。
辺りは真っ暗。
僕は自転車の灯りを、例の「赤い汽車」があった場所へ向けた。
僕は心臓が止まりそうになった。
赤いセパレートを着た、30前半くらいの女性が、そこにしゃがみこんでいた。
しかも、道のど真ん中。さっき「赤い汽車」があったその場所だ。
「何故!?」と、思った。
「何故暗闇であんたはしゃがみこんでいるのよ!」と。
僕は轢いてしまいそうになり、自転車に急ブレーキをかけた。
女の前で僕は止まった。
女と目が合った。
なんの事は無い。普通の人間だった。
僕は「あぶねえなぁ」と思ったが、何も云わず、
再び自転車に乗って帰宅を急ぐことにした。
数メートル程進んで気になって、後ろを振り返ってみて、寒気がした。
女が立ち上がり、じっとこちらを見ている。
暗闇で顔は見えないが、確実に、見られていた。
「気味悪い」と思った次の瞬間、
女 が 走 り 出 し た 。
こちらへ向けて全力疾走で走ってくる。
僕は怖くなり、自転車を滅茶苦茶に漕いだ。
振り返ると、女は数メートル進んだ場所で、またしゃがみこんでいた。
~おしまい~